中央林間駅から歩いて10分ほど。静かな住宅街の一角に、週末だけ開く小さなお店があります。名前は「まいにち北欧道具」。
つい先日まで、私もこのお店の存在を知りませんでした。
けれど「近所にこんなステキな場所があったなんて……!」と驚く方は、きっと私だけじゃないはず。
実際に訪ねてみると、そこはまるでフィンランドの小さな街角に紛れ込んだような、静かで心地よい空間でした。
年に数回、北欧へ。旅と暮らしのまんなかで

「まいにち北欧道具」のオーナーは、大の旅好き。とくにフィンランドをはじめとする北欧諸国をこよなく愛し、年に2〜3回は現地に足を運び、自らの目で選んだ雑貨を買い付けているそうです。
一点もののヴィンテージが多いため、タイミングを逃せば二度と出会えないことも。それだけに、店に並ぶ品々には、オーナーの旅の記憶と確かな審美眼が詰まっています。

店内には、「マリメッコ」のテキスタイルも並びます。ウニッコ(ケシの花)の大胆な柄で知られるこのブランドは、北欧を代表するテキスタイルメーカー。鮮やかな色づかいやユニークなパターンには、見る人の気持ちをパッと明るくする力があります。
北欧ヴィンテージに息づく、自然の美しさ

「まいにち北欧道具」には、オーナーが旅先で出会った雑貨たちが所狭しと並びます。とくに目を引くのは、フィンランドの老舗陶器ブランド〈ARABIA(アラビア)〉のヴィンテージシリーズ。
アラビアは1873年創業、長くフィンランドの人々の日常に寄り添ってきた陶器ブランドです。シンプルで温かみのあるフォルム、自然をモチーフにしたデザインは、まさに「暮らしの中で美しさが育つ器」。なかでも1960〜70年代のシリーズは、いま世界中でコレクターの注目を集めています。
鳥や花などをあしらったデザインも多く、現地の風景を思わせるような素朴さが魅力。
「フィンランドって、街中でもカモメが本当に飛んでいて。とても身近な鳥。器の絵柄にも、そういう日常がそのまま描かれているんですよね」と、オーナーは楽しそうに語ります。

そして北欧ヴィンテージの醍醐味のひとつが、器の裏側に刻まれたブランドロゴやデザイナー名、製造年のスタンプ。
それを見るだけで、「これは1970年代に作られたシリーズだな」と分かる方も。器好きにとっては、まさに裏面のロマンです。
もちろん、こうした北欧ヴィンテージは、決してお手頃とは言えないかもしれません。
だからこそ、「今日はこのマグカップ」「来月はあのお皿」と、少しずつ時間をかけて集めていくのも、大人の贅沢な楽しみ方のひとつです。

ちなみにこちらは思わず一目惚れしてしまった一枚。まるで童話の挿絵のようでとてもステキ。
あの「かもめ食堂」が火をつけた、北欧ブームの頃

今でこそ日本でも定番となった北欧雑貨ですが、オーナーが初めて買い付けに出かけた15年ほど前は、まだ北欧のデザインが注目され始めたばかりの時代。
ちょうどその頃、日本で公開された映画『かもめ食堂』(2006)は、そんな北欧人気のきっかけのひとつだったそうです。
物語の舞台はヘルシンキ。日本人女性が現地で食堂を開くというシンプルな話ながら、北欧の静かな街並み、洗練されたインテリア、自然体で生きる登場人物たちの姿が、「こんな暮らしがしてみたい」と多くの女性たちの心を掴んだのです。
「まいにち北欧道具」の雑貨の多くにも、あの映画で描かれた空気に通じる、静かで凛とした美しさがあります。

遠くから、目指して来る人も

すべて一点もののヴィンテージ雑貨。だからこそ、「出会いそのものが宝物」。
通販でも買えるけれどやはり実物を見たいと、週末の営業日には、県外からわざわざ訪れるファンも少なくありません。

「今日はどんなものがあるだろう」と、まるで宝探しのように訪れるリピーターも多く、オーナーとの会話を楽しみにする常連もいるそうです。
日本の手仕事も、北欧と呼吸を合わせて

店内に並ぶのは北欧ヴィンテージだけではありません。
オーナーが惚れ込んでセレクトした日本の作家作品やブランドも、棚のあちこちに静かに佇んでいます。
たとえば、鳥や花のモチーフを繊細な線で表現する陶磁器ブランド「BIRDS’ WORDS(バーズワーズ)」。そして、空気を編み込んだようにやわらかで軽やかなマクラメアクセサリーを手がける作家・松田紗和さん(matsudasawa)の作品も。
どれも、北欧雑貨に通じるようなナチュラルさと静けさを湛えつつ、日本人ならではの繊細な美意識が息づいていて、お店の空間にやさしく溶け込んでいます。

やわらかな線で鳥や草花を描く「BIRDS’ WORDS(バーズワーズ)」。どこか北欧の器と通じるあたたかさをまとっています。
小さくて静かな、でも確かな存在

14年前に中央林間に越してきてから、住まいの一角でスタートした「まいにち北欧道具」。
最初は今の半分ほどのスペースでしたが、オンラインショップと並行しながら、週末のリアル店舗を続けてきました。
帰り際、「どうぞ」とフィンランドのチョコミントキャンディーを家族分だけそっと手渡してくれたオーナー。
「包み紙がかわいいでしょう」と笑うその声に、雑貨選びと同じくらいの、センスと気遣いがそこにも宿っているように感じました。
中央林間の住宅街に、静かに佇む「北欧の扉」。その先にあるのは、旅の記憶と、温もりに満ちた「まいにち」かもしれません。

テーブルウェアだけでなく、動物をモチーフにした可愛らしい雑貨たちも、棚のあちこちに顔をのぞかせています。
まいにち北欧道具
住所:神奈川県大和市中央林間西4-7-18
アクセス:東急田園都市線「中央林間駅」から徒歩約10分
小田急江ノ島線「中央林間駅」から徒歩約10分
TEL:046-240-9432
営業時間:11:00-17:00
営業日:土曜日・日曜日
※実店舗の営業日は公式ホームページのカレンダーをご確認ください。